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那覇地方裁判所 平成9年(行ウ)9号 判決 1999年6月02日

沖縄県中頭郡西原町字桃原一〇九番地

原告

新沖縄観光開発株式会社

右代表者代表取締役

古謝将吉

右訴訟代理人弁護士

宮國英男

池田修

沖縄県浦添市宮城五丁目六番一二号

被告

北那覇税務署長 前新健千代

右指定代理人

山之内紀行

和多範明

世嘉良清

眞榮城もと子

松尾啓一

富村久志

古謝泰宏

外間克己

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対してなした以下の各処分を取り消す。

一  原告の平成二年五月一日から平成三年四月三〇日までの事業年度について、平成五年三月二九日付「法人税額等の更正通知書」をもってなした翌期へ繰り越す欠損金の申告額二三六六万九〇二六円を一四〇四万六七六九円とした法人税の更正処分のうち、翌期へ繰り越す欠損金一四〇四万六七六九円を超え、二三六六万九〇二六円に達するまでの部分

二  原告の平成三年五月一日から平成四年四月三〇日までの事業年度について、平成五年三月二九日付「法人税額等の更正通知書」をもってなした翌期へ繰り越す欠損金の申告額五九二五万八五九六円を三八一〇万三〇六三円とした法人税の更正処分のうち、翌期へ繰り越す欠損金三八一〇万三〇六三円を超え、五九二五万八五九六円に達するまでの部分

三  原告の平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの課税期間について、平成五年三月二九日付「消費税の更正通知書」をもってなした消費税の更正処分のうち、課税標準額六億〇二五六万五〇〇〇円、納付すべき税額三三八万六五〇〇円を超える部分

四  原告の平成二年五月一日から平成三年四月三〇日までの課税期間について、平成五年三月二九日付「消費税の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」をもってなした消費税の更正処分のうち、課税標準額七億四八二七万六〇〇〇円、納付すべき税額一一七六万六三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税三三万九〇〇〇円の賦課決定処分

五  原告の平成三年五月一日から平成四年四月三〇日までの課税期間について、平成五年三月二九日付「消費税の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」をもってなした課税標準額の申告額六億八四八五万二〇〇〇円、還付税額の申告額五八八万九六五六円を、課税標準額八億〇九四九万九八六四円、還付税額二一五万〇二二八円、過少申告加算税三七万三〇〇〇円とした消費税の更正処分のうち、課税標準額六億八四八五万二〇〇〇円を超える部分、還付すべき税額二一五万〇二二八円を超え、五八八万九六五六円に達するまでの部分及び過少申告加算税三七万三〇〇〇円の賦課決定処分

六  原告に対して、平成五年四月二八日付でなした、別表三記載の平成二年一月から平成五年三月までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分

第二事案の概要

一  本件は、被告が原告に対してした法人税及び消費税の更正処分、消費税の過少申告加算税の賦課決定処分及び源泉所得税の納税告知処分について、原告が、いずれも課税の前提となる事実に誤認があるとして、その一部取消しを求めた事案である。

二  前提事実

1  原告は、ゴルフ場の経営等を業とする会社であり、沖縄カントリークラブ(以下「沖縄カントリー」という。)を経営している。

2  原告は、平成二年五月一日から平成三年四月三〇日まで、平成三年五月一日から平成四年四月三〇日までの各事業年度(以下、順次、「平成三年四月期」、「平成四年四月期」といい、右各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表一の「確定申告」欄のとおり記載し、併せて、平成元年五月一日から平成二年四月三〇日まで、平成二年五月一日から平成三年四月三〇日まで、平成三年五月一日から平成四年四月三〇日までの各課税期間(以下、順次、「平成二年四月期課税期間」、「平成三年四月期課税期間」、「平成四年四月期課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に、別表二の「確定申告」欄のとおり記載して、被告に対し、右確定申告書をいずれも法定申告期限内に提出した。

3  被告は、原告に対し、本件各事業年度の法人税及び本件各課税期間の消費税の調査を行い、右調査結果に基づき、平成五年三月二九日付けで、別表一の「<2>更正」欄記載の本件各事業年度の法人税の更正並びに別表二の「更正」欄及び「過少申告加算税」欄記載の本件各課税期間の消費税の更正及び平成三年四月期課税期間、平成四年四月期課税期間の消費税の過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を行った。さらに、被告は、原告に対し、平成五年四月二八日付けで、別表三記載のとおり、平成二年一月ないし平成五年三月までの源泉所得税の納税告知処分(以下「本件納税告知処分」といい、以上の課税処分をすべて併せて「本件各課税処分」という。)を行った。

4  被告が、本件各課税処分をした理由は、以下のとおりである。

(一) 平成三年四月期の法人税の更正について

(1) 原告が確定申告において申告した当初の所得金額 零円

原告が確定申告において申告した所得金額(平成三年四月期開始の日前の五年以内に開始した事業年度に生じた欠損金のうち、欠損金の損金算入前の所得金額四一四万六四六三円相当額を損金の額に算入した後のもの)は、零円である。

(2) 前期からの繰越欠損金 三一一六万二一八九円

平成三年四月期の繰越欠損金額は、別表一「<1>更正」欄の平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの事業年度(以下「平成二年四月期」という。)における翌期に繰り越す欠損金二七八一万五四八九円に、平成五年三月二九日付けでした平成二年四月期の法人税の更正によって、新たに生じた欠損金三三四万六七〇〇円を加算した額である。

(3) 加算項目(アないしオの合計) 一億二九八一万〇九九五円

ア 売上計上漏れ 一億一三一一万六〇一九円

原告は、プレーヤーから受け取ったキャディー利用料金(以下「キャディーフィー」という。)を、原告の売上げとして収益に計上すべきであるにもかかわらず、右キャディーフィーを、キャディー仮受金として処理した上、右仮受金のうち、六八九八万二五〇〇円をキャディーの施設利用収入として、収益に計上し、その余のキャディーフィー一億一六五〇万九五〇〇円について、原告の収益として計上していないため、右一億一六五〇万九五〇〇円に含まれる消費税相当額三三九万三四八一円(一億一六五〇万九五〇〇円に一〇三分の三を乗じたもの)を控除した、一億一三一一万六〇一九円を売上計上漏れとして加算する。

イ 雑益計上漏れ 八一円

アで算出した消費税相当額三三九万三四八一円と、後記平成三年四月期課税期間の「更正により納付すべき税額」三三九万三四〇〇円との差額八一円については、益金となるため(「消費税法の施行に伴う法人税の取扱いについて」平成元年三月一日・直法二-一通達六、以下同じ)雑益計上漏れとして加算する。

ウ 新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入額 三二万二九六五円

租税特別措置法(以下「措置法」という。)六二条の二第一項では、法人の新規取得土地等に係る負債の利子の課税の特例について規定しており、法人が基準日(所得税法等の一部を改正する法律の施行の日の翌日である昭和六三年一二月三一日)以後に終了する各事業年度終了の時において新規取得土地を有する場合に、当該事業年度に当該新規取得土地等に係る負債利子損金不算入期間が含まれているときは、当該事業年度の負債の利子の額のうち、当該新規取得土地等の基準取得価額に一〇〇分の六を乗じた金額に、当該事業年度に含まれる当該新規取得土地等に係る負債利子損金不算入期間の月数を乗じた上、これを一二で除した金額か、又は当該事業年度の負債の利子の額に当該事業年度に含まれる当該新規取得土地等に係る負債利子損金不算入期間の月数を乗じて、これを当該事業年度の月数で除した金額のいずれか少ない金額に相当する金額の合計額は、当該事業年度の所得の計算上、損金の額に算入しないこととされている。

原告は、平成三年四月期において、西原町字池田二一-一他三筆の土地を取得したが、確定申告において、右新規取得土地等に係る負債利子三二万二九六五円(別表四の一)を損金不算入としていないため、同金額を所得金額に加算する。

エ 県民税利子割の損金不算入額 一六万九七八〇円

法人税法三八条二項三号は、法人が納付する地方税法の規定による道府県民税及び市町村民税については、法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されないと規定しているところ、原告は、平成三年四月期において、県民税の利子割額一六万九七八〇円を損金の額に算入しているため、同金額を所得金額に加算する。

オ 特別控除の対象とならない補償金 一六二〇万二一五〇円

原告は、西原町からの立木補償金一六二〇万二一五〇円は、対価補償金に該当するとして、措置法六五条の二に規定する収用換地等の場合の所得の特別控除をしているところ、右補償金は移転補償金と認められ、同条を適用することはできないから、所得金額に加算する。

(4) 減算項目(ア及びイの合計) 一億一六八四万二〇三八円

ア 給与の経費認容額 一億一六五〇万九五〇〇円

原告は、キャディーフィーを、キャディー仮受金として処理した上、キャディー報酬の支払いに当たっては、右仮受金を取り崩すという経理処理を行い、右金員を損金に計上していないところ、原告がキャディーに対して支払うキャディー報酬が給与所得に該当し、法人税法二二条三項二号に規定する、原告の一般管理費として損金に計上すべきである。したがって、原告の平成三年四月期における「キャディー仮受金」勘定から期中にキャディー報酬として支払われた一億一六八二万四一〇〇円と右勘定の翌期繰越残高二八万六〇〇〇円の合計金額から、同勘定の期首繰越残高六〇万〇六〇〇円を差し引いた金一億一六五〇万九五〇〇円が当期に発生したキャディー報酬であるから、これを経費認容し、所得金額から減算する。

イ 寄附金の損金算入額 三三万二五三八円

法人税法三七条の規定によれば、当期の寄附金として損金に算入できる金額は、寄附金支出前の所得金額の一〇〇分の二・五に相当する金額に、期末の資本等の金額の一〇〇〇分の二・五に相当する金額を加算し、二分の一を乗じた金額であるところ、本件更正による所得金額の異動に伴い、同法三七条に規定する寄付金の損金算入額が異動し、新たに三三万二五三八円が損金に算入されることになるので、同金額を所得金額から減算する。

(5) 繰越欠損金の当期控除対象額の増加額 一二九六万八九五七円

法人が欠損金額の生じた事業年度において青色申告書を提出し、かつ、その後も連続して確定申告書を提出している場合には、当該法人の各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額は、各事業年度の欠損金額に算入する(法人税法五七条)。当該損金算入は、最も古い事業年度に生じたものから順次行い(法人税基本通達一二-一-一)、当期の所得金額から控除しきれないものは翌期に繰り越される(以下「繰越欠損金」という。)。

繰越欠損金があれば、右のとおり、当期の所得金額から控除できるところ、前記のとおり、原告は平成三年四月期の確定申告において、すでに、前期からの繰越欠損金三一一六万二一八九円のうち四一四万六四六三円を損金の額に算入しているから、原告が損金算入できる繰越欠損金は、二七〇一万五七二六円である。ところで、(3)及び(4)のとおり、新たに当期の所得として、加算項目合計一億二九八一万〇九九五円から減算項目合計一億一六八四万二〇三八円を差し引いた一二九六万八九五七円が生じることになるが、右のとおり繰越欠損金二七〇一万五七二六円があるので、このうち右所得額に相当する一二九六万八九五七円を損金に算入することになる。

したがって、当期に繰越欠損金から控除すべき額(以下「繰越欠損金の当期控除対象額」という。)の増加額は、一二九六万八九五七円となる。

(6) 所得金額 零円

(1)の当初の所得金額に、(3)の加算項目の合計額を加算し、これから(4)の減産項目の合計額及び(5)の繰越欠損金の当期控除対象額の増加額を減算する。

(7) 翌期に繰り越される欠損金額 一四〇四万六七六九円

(2)の繰越欠損金三一一六万二一八九円から、当初の所得金額四一四万六四六三円(欠損金の損金算入前のもの)及び繰越欠損金の当期控除対象額の増加額一二九六万八九五七円を減算する。

(二) 平成四年四月期の法人税の更正処分について

(1) 当初の所得金額 ▲三五五八万九五七〇円

(▲は、欠損を示す。)

(2) 前期からの繰越欠損金 一四〇四万六七六九円

(一)の(7)のとおり

(3) 加算項目(アないしオの合計) 一億三九九九万四七〇五円

ア 売上計上漏れ 一億二四六四万七八六四円

原告は、(一)と同様、プレーヤーから受領したキャディーフィー全額を、原告の売上げとして、収益に計上すべきであるにもかかわらず、これを、キャディー仮受金及び預かり金として処理した上、右勘定から、五六五二万三七〇〇円をキャディーの施設利用収入として、収益に計上し、その余のキャデイーフィ一億二八三八万七三〇〇円について、原告の収益として計上していないため、右一億二八三八万七三〇〇円に含まれる消費税相当額三七三万九四三六円を控除した、一億二四六四万七八六四円を売上計上漏れとして加算する。

イ 受取利息の収益計上漏れ 二万九四九三円

原告は、平成三年六月二八日に、琉球銀行与那原支店で、キャディーマスターである大城道教名義で普通預金口座を開設し、右口座に、キャディーフィーの一部を入金していたが、右口座の普通預金利息二万九四九三円が収益計上漏れとなっているため、所得金額に加算する。

ウ 雑益計上漏れ

アで算出した消費税相当額三七三万九四三六円と、後記平成四年四月期課税期間において「更正により納付すべき税額」三七三万九四〇〇円との差額三六円については、益金となるため、雑益計上漏れとして所得金額に加算する。

エ 新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入額 一五三一万五四六九円

原告は、平成三年四月期に西原町字池田二一-一ほか三筆の土地を、平成四年四月期に西原町字我謝三一四-一ほか一三筆の土地を取得したが、確定申告において、新規取得土地等に係る負債利子一五三一万五四六九円(別表四の二ないし四の三)を損金不算入としていないため、所得金額に加算する。

オ 県民税利子割の損金不算入額 一八四三円

イの受取利息二万九四九三円は、一五パーセントの所得税及び五パーセントの県民税を控除した後の金額であるが、法人税法三八条二項三号の規定により、県民税利子割については、損金に算入できないから、右県民税利子割を所得金額に加算する。

(4) 減算項目(給与の経費認容額) 一億二八四三万〇七九三円

原告は、平成四年四月期において、キャディーフィーを、キャディー仮受金及び預かり金として処理した上、キャディー報酬の支払に当たり、右仮受金及び預かり金を取り崩すという経理処理を行い、右金員を損金に計上していないところ、(一)のとおり、原告がキャディーに対して支払うキャディー報酬は、給与所得に該当するから、法人税法二二条三項二号に規定する原告の一般管理費として損金に計上すべきである。

また、原告は、キャディーの所得税、地方税、国民健康保険税等一一七四万五八六一円を、キャディーに代わって支払っており、右支払は、キャディーへの給与と認められる。したがって、給与の経費認容額は、原告の平成四年四月期における「キャディー仮受金」勘定から期中にキャディー報酬として支払われた一億一四一三万〇七〇〇円と右勘定の翌期繰越残高一五二万四六〇〇円及び「キャディー預かり金」勘定の翌期繰越残高一三一万五六三二円を加算した金額から、「キャディー仮受金」の期首繰越残高二八万六〇〇〇円を差し引いた金額(「キャディー預かり金」勘定の期首繰越残高は零円である。)に、右のとおり、原告がキャディーに代わって支払ったキャディーの税金等一一七四万五八六一円を加えた一億二八四三万〇七九三円となる。

(5) 所得金額(欠損金額) ▲二四〇二万五六五八円

(1)の原告の申告所得金額▲三五五八万九五七〇円に、(3)の加算項目の合計額一億三九九九万四七〇五円を加算し、(4)の減算項目一億二八四三万〇七九三円を減算する。

(6) 翌期に繰り越される欠損金 ▲三八〇七万二四二七円

(2)の▲一四〇四万六七六九円に、(5)の欠損金▲二四〇二万五六五八円を加算する。

以上のとおり、「翌期に繰り越される欠損金」は、本件各事業年度の法人税の更正による「翌期に繰り越される欠損金」(平成三年四月期▲一四〇四万六七六九円、平成四年四月期▲三八一〇万三〇六三円)と同額か、あるいはこれを下回るから、本件各事業年度の法人税の更正は適法である。

(三) 平成二年四月期課税期間消費税の更正処分について

(1) 課税標準額 七億一四一二万一〇〇〇円

ア 確定申告による課税標準額 六億〇二五六万五〇〇〇円

イ 課税売上計上漏れ 一億一一五五万六六〇一円

平成二年四月期の法人税の更正において、原告がプレーヤーから受け取ったキャディーフィーの一部につき、売上計上漏れとして所得金額に加算するが、右キャディーフィーは、原告の役務の対価と認められるから、消費税法上、資産の譲渡等に該当し、課税の対象となる(消費税法二条一項八号、同四条一項)。

右課税標準額は、課税資産の譲渡等につき課税されるべき消費税に相当する額を含まないところ(同二八条一項)、右売上計上漏れとなっていた一億一四九〇万三三〇〇円には、消費税が含まれているから右金額から消費税に相当する額を除いた金額は、一億一一五五万六六〇一円(右金額に一〇三分の一〇〇を乗じたもの)となる。

ウ 課税標準額 七億一四一二万一〇〇〇円

課税標準額は、アの確定申告に係る課税標準額六億〇二五六万五〇〇〇円に、イの一億一一五五万六六〇一円を加算した、七億一四一二万一〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたもの、以下同じ)となる。

(2) 課税標準額に対する消費税額 二一四二万三六三〇円

課税標準額に対する消費税額は、(1)の課税標準額七億一四一二万一〇〇〇円に税率一〇〇分の三(消費税法二九条)を乗じると、二一四二万三六三〇円となる。

(3) 税額控除額 一四六九万〇四二三円

確定申告における仕入れに係る消費税の控除額は、一四六九万〇四二三円であるが、平成二年四月期の法人税の更正において経費認容をしたものには、消費税において、課税仕入れ(消費税法二条一項一二号)として認められるものはないから、右控除額が税額控除額となる。

なお、平成二年四月期の法人税の更正において、キャディー報酬一億一四九〇万三三〇〇円を原告の一般管理費として経費認容するが、消費税法二条一項一二号の規定では課税仕入れの対象とされている役務の提供は所得税法二八条一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除外しているところ、原告がキャディーに対して支払うキャディー報酬は給与所得に該当するので、消費税法にいう課税仕入れとしてこれに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除すべきではない。

(4) 納付税額 六七三万三二〇〇円

納付税額は、(2)の課税標準額に対する消費税額二一四二万三六三〇円から、(3)の税額控除額一四六九万〇四二三円を控除した金額六七三万三二〇〇円(国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てたもの、以下同じ)である。

(5) 更正により納付すべき税額 三三四万六七〇〇円

納付税額六七三万三二〇〇円から確定申告により納付した税額三三八万六五〇〇円を差し引いた金額である。

(四) 平成三年四月期課税期間消費税の更正処分について

(1) 課税標準額 八億六一三九万二〇〇〇円

ア 確定申告による課税標準額 七億四八二七万六〇〇〇円

イ 課税売上計上漏れ 一億一三一一万六〇一九円

前記のとおり、平成三年四月期の法人税の更正において、原告がプレーヤーから受け取ったキャディーフィーの一部につき、売上計上漏れとして所得金額に加算したが、右キャディーフィーは、役務の対価と認められるから、消費税法上、資産の譲渡等に該当し、課税の対象となる。

右課税標準額は、課税資産の譲渡等につき課税されるべき消費税に相当する額を含まないところ、右売上計上漏れとなっていた一億一六五〇万九五〇〇円には、消費税が含まれているから、右金額から消費税に相当する額を除いた金額は、一億一三一一万六〇一九円(右金額に一〇三分の一〇〇を乗じたもの)となる。

ウ 課税標準額 八億六一三九万二〇〇〇円

課税標準額は、アに、イを加算した八億六一三九万二〇〇〇円となる。

(2) 課税標準額に対する消費税額 二五八四万一七六〇円

(1)の課税標準額八億六一三九万二〇〇〇円に税率一〇〇分の三を乗じると、二五八四万一七六〇円となる。

(3) 税額控除額 一〇六八万一九八一円

確定申告における仕入れに係る消費税の控除額は、一〇六八万一九八一円であるが、平成三年四月期の法人税の更正において経費認容をしたものには、消費税において、課税仕入れとして認められるものはないから、右控除額が税額控除額となる。

なお、平成三年四月期の法人税の更正においてキャディー報酬一億一六五〇万九五〇〇円を原告の一般管理費として経費認容するが、前記のとおり、キャディー報酬は、消費税法にいう課税仕入れとして、これに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除すべきではない。

(4) 中間納付税額 一六九万三二〇〇円

(5) 納付税額 一三四六万六五〇〇円

納付税額は、(2)の課税標準額に対する消費税額二五八四万一七六〇円から(3)の税額控除額一〇六八万一九八一円及び(4)の中間納付税額一六九万三二〇〇円を控除した金額一三四六万六五〇〇円である。

(6) 更正により納付すべき税額 三三九万三四〇〇円

(5)の納付税額一三四六万六五〇〇円から原告が確定申告により納付した税額一〇〇七万三一〇〇円を差し引いた金額である。

(五) 平成四年四月期課税期間消費税の更正処分について

(1) 課税標準額 八億〇九四九万九〇〇〇円

ア 当初申告による課税標準額 六億八四八五万二〇〇〇円

イ 課税売上計上漏れ 一億二四六四万七八六四円

前記のとおり、平成四年四月期の法人税の更正において、原告がプレーヤーから受け取ったキャディーフィーの一部につき、売上計上漏れとして所得金額に加算するが、右キャディーフィーは、役務の対価と認められるから、消費税法上、資産の譲渡等に該当し、課税の対象となる。

右課税標準額は、課税資産の譲渡等につき課税されるべき消費税に相当する額を含まないところ、右売上計上漏れとなっていた一億二八三八万七三〇〇円には、消費税が含まれているから、右金額から消費税に相当する額を除いた金額は、一億二四六四万七八六四円(右金額に一〇三分の一〇〇を乗じたもの)となる。

ウ 課税標準額 八億〇九四九万九〇〇〇円

課税標準額は、アにイを加算した八億〇九四九万九〇〇〇円となる。

(2) 課税標準額に対する消費税額 二四二八万四九七〇円

(1)の課税標準額八億〇九四九万九〇〇〇円に税率一〇〇分の三を乗じると、二四二八万四九七〇円となる。

(3) 税額控除額 二六四三万五二二三円

確定申告における仕入れに係る消費税の控除額は、二六四三万五二二三円であるが、平成四年四月期の法人税の更正において経費認容をしたものには、消費税において、課税仕入れとして認められるものはないから、右控除額が税額控除額となる。

なお、平成四年四月期の法人税の更正においてキャディー報酬一億二八四三万〇七九三円を原告の一般管理費として経費認容するが、原告がキャディーに対して支払うキャディー報酬は、消費税法にいう課税仕入れとして、これに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除すべきではない。

(4) 控除不足還付税額 △二一五万〇二五三円

控除不足還付税額は、(2)の課税標準額に対する消費税額二四二八万四九七〇円から、(3)の税額控除額二六四三万五二二三円を控除した△二一五万二五三円(△は還付を示す、以下同じ。)である。

(5) 更正により納付すべき税額 三七三万九四〇〇円

更正により納付すべき税額は、(4)の控除不足還付税額△二一五万〇二五三円から確定申告による控除不足還付税額△五八八万九六五六円を差し引いた三七三万九四〇〇円である。

(6) 以上のとおり、「更正により納付すべき金額」は、原告の本件各課税期間の消費税の更正による「更正により納付すべき金額」(平成二年四月期課税期間三三四万六七〇〇円、平成三年四月期課税期間三三九万三四〇〇円、平成四年四月期課税期間三七三万九四〇〇円)といずれも同額となるから、本件各課税期間の消費税の更正は適法である。

(六) 本件各賦課決定処分について

被告は、国税通則法六五条一項の規定に基づき、平成五年三月二九日付けで、別表二の「過少申告加算税」欄記載のとおり、本件各賦課決定処分を行った。

(七) 本件納税告知処分について

(1) 居住者に対し、国内において所得税法二八条一項に規定する給与等の支払をする者(以下「支払者」という。)は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収した日の属する月の翌月一〇日までに、これを国に納付しなければならない(所得税法一八三条一項)。そして、支払者が給与等の支払の際、所得税の源泉徴収を怠っていた場合でも、国は必ずその支払者から徴収すること(同二二一条)とされており、源泉徴収による所得税が右法定納期限までに納付されなかった場合において、税務署長が右の所得税を徴収しようとするときには、納税の告知をしなければならない(国税通則法三六条一項二号)。

(2) 原告がキャディーに対して支払ったキャディー報酬等は、給与所得とすべきところ、原告は、右所得に係る源泉徴収をしていないため、被告は、前記規定に基づき、平成五年四月二日付けで、別表三の本件納税告知処分を行った。

原告が徴収すべきキャディー報酬等に係る源泉所得税の額は、所得税法一八五条一項二号及び同法一八六条一項二号の規定に基づき算定すると、別表五の「源泉徴収額」欄のとおりとなり、各月の右源泉徴収所得税の額は、本件納税告知処分の額をいずれも上回るから、本件納税告知処分は適法である。

5  原告は、本件各課税処分を不服として、被告に対し、本件各事業年度の法人税の更正、本件各課税期間の消費税の更正及び本件各賦課決定処分については、平成五年五月一九日に、さらに、本件納税告知処分については、同月二〇日に、それぞれ異議申立てをした。これに対し、被告は、本件各事業年度の法人税の更正並びに本件各課税期間の消費税の更正及び本件各賦課決定処分の異議申立てについては、同年八月一六日付けで、さらに、本件納税告知処分の異議申立てについては、同月一七日付けで、いずれも異議を棄却する決定をした。

6  原告は、右処分を不服として、国税不服審判所長に対し、本件各課税期間の消費税の更正及び本件各賦課決定処分並びに本件納税告知処分については、平成五年九月一〇日に、本件各事業年度の法人税の更正については、同年九月一六日に、それぞれ審査請求をした。これに対し、国税不服審判所長は、平成九年六月二七日付けで、右審査請求について、いずれも棄却の裁決をした。

三  争点

プレーヤーが、キャディーを伴ってゴルフを行い、キャディーフィーを支払った場合、キャディーが原告から受け取るキャディー報酬が給与所得となるか、事業所得となるか。

四  原告の主張

1  キャディーフィーは、プレーヤーとキャディーとの間の請負契約に基づいて支払われる報酬で、キャディーの事業所得である。

原告とキャディーとは、従前は雇用関係にあったが、キャディーの希望により、昭和四六年一〇月ころ、右雇用契約を合意解除し、各キャディーがプレーヤーとの間で、直接請負契約を締結する方式に変更された。したがって、キャディーがプレーヤーに随行して労務を提供することについて、原告とキャディーとの間に雇用契約は存しない。原告がプレーヤーからキャディーフィーを受け取っているのは、最終ホールや駐車場等で直接プレーヤーからキャディーに報酬が支払われることがゴルフ場のイメージを悪化させることから、原告がキャディーを代理して受領しているにすぎない。

2  原告とキャディーとの間に雇用関係がないことは、以下の事実からも明らかである。

(一) キャディーは、プレーヤーの組の割当及びスタート時間については原告の指示を受けるが、プレーヤーに随行して労務を提供している際に原告の指示を受けることはほとんどなく、自己の判断と責任によって労務を提供している。また、一日のラウンド回数の決定もキャディー自らが行っている。

(二) キャディーには定時刻の出勤義務がなく、出勤簿も存在しない。また、キャディーは、いつでも自由に休暇をとることができる。一方で、原告はキャディーに対し、プレーヤーがスタートするまでの待機時間等について補償していない。このように、キャディーは、原告との間で時間的に拘束されない反面、待機時間等についての補償を受けない。

(三) キャディーは、兼業を禁止されておらず、原告の承諾を得ることなく兼業を行うことができる。

(四) キャディーフィーのうちキャディー報酬に該当する金額については、キャディーらが独自に決定している。原告は、キャディーらが決定した右報酬金額を前提にキャディーフィーの額を決定する。

(五) キャディーは、プレー開始後の天候の悪化等によって原告がプレーヤーからゴルフ場利用料(グリーンフィー)を請求できないような場合、キャディー報酬に相当する額を受け取ることはなく、業務に関する危険を負担している。

(六) キャディーの受け取る役務提供の対価は、キャディーの経験年数に関係なく同一である。

(七) 原告は、キャディーについて雇用保険等の社会保険に加入しておらず、キャディーは、自ら国民健康保険や国民年金に加入している。

(八) キャディーは、カート代金、茶菓子代、制服代等を負担している。

(九) キャディーは、平成二年以降、キャディー報酬等の所得について、自己の事業所得として確定申告を行っている。

(一〇) キャディー委員会は、原告の組織ではなく、同委員会の意見は、原告のキャディーに対する指揮命令ではない。

3  沖縄国税事務所及び北那覇税務署は、平成三年に原告に対して税務調査を行い、キャディー報酬が原告の売上に計上されない、キャディー報酬に対して源泉所得税を課税しないとの結論を出したが、これは、キャディーの仕事の実体を調査してキャディー報酬が給与所得にならないという判断をしたからである。実際、北那覇税務署は、原告に対して、個々のキャディーに事業所得として申告させるように指導し、原告もこれに従ってきた。

被告は、平成五年に本件各課税処分を行ったが、平成三年と平成五年では、原告とキャディーとの関係には全く変化がなく、平成三年に給与所得ではないとの判断をした背景に特別に変化がない以上、キャディー報酬は給与所得ではないというべきである。

五  被告の主張

1  所得税法では、給与所得について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与…に係る所得」(同法二八条一項)と規定しているが、右規定で給与所得として列挙されている給与の形態は、例示的なものであって、それらは定額給であるか、出来高払給であるか、さらには、基本給、勤務地手当、家族手当、超過勤務手当その他であるかを問わない。一方、事業所得については、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得」(同法二七条一項)と規定し、これを受けて、政令では、農業、林業及び狩猟業、漁業及び水産養殖業、鉱業(土石採取業を含む。)、建設業、製造業、卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)、金融業及び保険業、不動産業、運輸通信業(倉庫業を含む。)、医療保健業、著述業その他のサービス業のほか、対価を得て継続的に行なう事業(同法施行令六三条)と規定している。

所得税法における給与所得とは、単に雇用関係に基づき労務の対価として支給される報酬というよりは広く、雇用又はこれに類する原因に基づいて、非独立的に提供される労務の対価として、他人から受ける報酬及び実質的にこれに準ずべき給付をいうと解すべきであり、労務の提供が自己の危険と計算によらず、他人の指揮監督ないし組織の支配に服してなされる場合にその対価として支給されるものであると解される。これに対し、同法における事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、利益を得ることを目的とし、継続的に行う経済活動から生じるものであると解される。

2  そこで、これを本件についてみるに、本件具体的事案における業務の遂行ないし労務の提供の態様等に関して、以下の各事実が認められる。

(一) キャディー業務は、ゴルフ場におけるサービス提供業務の一部をなしている。キャデイーがその役務を提供するのは、あくまでも原告の経営するゴルフ場のサービス及び安全管理の一環であって、原告のゴルフ場のサービスから独立して、独自にその役務を提供するものではない。このことは、以下の点から明らかである。

(1) キャディーの業務内容は、プレーヤーに随行し、プレーヤーに対してあらかじめ原告から指示されたサービスを行うこと及びプレーの進行管理、安全管理等である。特に、沖縄カントリーは、その地形上、グリーンが見えないブラインドになるホールが多く、安全管理のためキャディーの随行が不可欠である。原告は、キャディーを通じて、プレーヤーに快適にゴルフを楽しんでもらうためのサービスを提供するとともに、沖縄カントリーにおけるプレーの円滑かつ安全な進行を確保している。

(2) キャディーとして採用される者は、最初に一定期間の見習期間があり、右期間中、キャディーマスターが指示するべテランのキャディーに付いてキャディー業務を習得しなければならず、一定期間経過後、キャディーマスターやその他原告会社職員に随行して実際にキャディー業務を行い、能力が一定の基準に達したと認められた場合に、はじめて、キャディーとして採用される。このように、原告は、新規のキャディー希望者の能力について、会社としての判断を行って採否を決定している。また、採用後も、プレーヤーからキャディーの能力等の情報を得て、クレーム等があった場合には、キャディーに「勉強しなさい」と指示を出すのであり、原告が自らのサービス提供のためにキャディーとして採用を希望するものに一定の能力を求めていることは疑う余地がない。

(3) 沖縄カントリーでは、プレーヤーはキャディーの随行が義務付けられており、しかも、沖縄カントリーに所属するキャディー以外は随行させることはできない。また、原則的にプレーヤーが特定のキャディーを指定することはできないし、キャディーもまた自分が随伴するプレーヤーを選ぶことはできない。

(4) キャディーは、全員原告から支給される制服を着用してキャディー業務を行っている。

(二) キャディーの業務については、以下のとおり、原告の指揮命令のもとに行われていることは明らかである。

(1) 各キャディーには、原告によって番号が付けられており、原告は、事前予約のプレーヤーに、右番号に従ってキャディーを充てている。したがって、キャディーのスタート時間は、原則として右番号により決定され、各キャディーは、スタート時間の約一時間前にはゴルフ場に出勤し、待機することとなっている。

(2) キャディーが休暇をとる場合、事前にキャディーマスターに連絡して調整してもらうか、キャディー番号で自分の次順位にあたる者にその旨を了知させ、プレーヤーに対するキャディーの随行に支障が生じないよう配慮している。

(3) プレーの進行管理や中断等のプレーに関する業務は、キャディーの判断に一部委ねられている部分はあるものの、コースを巡回している原告の従業員が指示を行った場合には、キャディーはその指示に従うことになっている。

(4) 原告は、各プレーヤーに交付したキャディー採点カードにキャディーの評価を記入してもらうことにより、キャディーの勤務状況を日常的に把握し、また、毎月一回、会員から選ばれたキャディー委員と支配人やキャディーマスターが集まってキャディーの勤務状況についてミーティングを行い、その場で指摘された事項について、キャディーマスターが、個別キャディーに対する指導又はキャディー全員に対する一般的指導という形で、キャディーの業務を監督している。さらに、原告は、「キャディー読本」という冊子を備え、キャディーに読んでもらうようにしており、これも原告のキャディーに対する指揮・監督の一環ととらえることができる。

(5) ゴルフ場の基本的なサービスの内容は、プレーの場所(コース)を提供することにあるから、キャディーもまた場所的にゴルフ場に拘束され、その一定の場所を利用し、時間をずらしてプレーがされることから、キャディーの勤務時間も原告が配分する時間に拘束される。

(三) キャディー報酬は、キャディー業務に従事した対価として、随行したラウンド数に応じて、原告が定める「キャディー給与要項」に基づいて計算された金額が支給されている。「キャディー給与要項」によれば、経験・能力・サービスの程度等に関係なく、一ラウンド当たりの単価が決められているところ、キャディーフィーの金額が常に一律であるのに対し、キャディー報酬は、平日よりも土曜・日曜・祝祭日における単価が若干高く、また、一日に二ラウンドを回った場合には、二ラウンド目の単価は一ラウンド目よりも高く設定されている。このようなキャディー報酬の支給基準は、祝祭日等にもキャディーを確保するという原告側の経営的必要性を反映し、祝祭日等におけるキャディーの出勤等を奨励する内容のものとなっている。

そして、キャディーフィーは、県内の相場を参考に、原告の方針によって決められている。

(四) 原告は、プレー終了後にプレーヤーからキャディーフィーやグリーンフィー等の利用料金を受け取り、受け取ったキャディーフィーの中からキャディー報酬を週ごとにまとめてキャディーに支払う。その残額のうち、「キャディー給与要項」に基づいて計算された月ラウンド給相当額との差額を原告の収入に計上し、月ラウンド給相当額を原資として、キャディーの税金等を負担し、その残りの部分については何ら精算もすることなく原告に留保されている。また、このようなキャディーフィーにかかる経理処理の具体的内容については、キャディーには一切知らされていない。原告はキャディーフィーの全額を支配管理し、その配分についても原告が決定している。

3  以上の事実関係に照らすと、原告のゴルフ場におけるキャディーの従事形態は、原告の指揮監督ないし支配に服して行われ、キャディーによる自己の計算と危険において独立して営まれているものではないことが明らかであるから、キャディー報酬は、事業所得には該当せず、所得税法二八条にいう給与所得に当たるというべきである。

第三当裁判所の判断

一  証拠(甲五ないし九、乙一ないし五、証人小橋川治、同大城道教、同幸地長興、同高良朝子、同島袋清正)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する主張は、前掲各証拠に照らし、採用できない。

1  原告は、昭和四六年一〇月ころまで、キャディーとの間で雇用契約を締結していたが、キャディーの多くが、四五歳の定年後も働きたいとの希望を持ち、また、兼業を禁止されていることや休暇を取りにくいことへの不満もあったことから、同月ころ、キャディー全員との間で右雇用契約を合意解除し、その際キャディーに退職金を支払った。

その後、キャディーは、プレーヤーから直接キャディーフィーを受け取ることになったが、キャディーの中にはキャディーフィーを多目に請求する者もいてトラブルが発生したり、その支払が他のプレーヤーがプレーしている最終ホールや多くのプレーヤーのいる駐車場でされるなどゴルフ場のイメージも悪くなっていたりしたことから、昭和四九年七月ころからは、プレーヤーは、キャディーフィーを原告に支払い、原告からキャディーに対して、キャディー報酬が支払われるようになった。

2  沖縄カントリーでは、地形上ブラインドになるホールが多いため、安全管理のため、プレーヤーはキャディーを随行させなければならず、しかも、沖縄カントリーに所属するキャディー以外は随行させることができないこととなっている。また、プレーヤーは、原則として特定のキャディーを指定することはできず、キャディーも自分が随行するプレーヤーを選ぶことはできない。

各キャディーには、原告によって番号が付けられており、事前に予約しているプレーヤーに、右番号に従ってキャディーが随行することとなっている。すなわち、前日の最後にスタートしたキャディーの次の番号のキャディーから順番に翌日のスタートをすることになる。

各キャディーは、前日に、翌日の予約状況を見て自分のスタート時間を判断し、その時間の一時間前にはゴルフ場に来て待機することとなっている。ただし、キャディーには定時刻の出勤義務はなく、出勤簿も存在しない。

キャディーが休暇をとる場合やスタート時間を変更する場合は、業務に支障が生じないように、事前に原告の従業員であるキャディーマスターに連絡して調整してもらったり、自分の番号に近い番号のキャディーに連絡して替わってもらったりしており、特に、事前の届出は義務付けられていない。

キャディーマスターは、キャディーの人数を確保するために、毎朝のように、キャディーに対して、仕事をするかどうかの確認の電話をしたり、キャディーが不足しそうな場合には、ゴルフ場に来るように電話で依頼したりしている。

3  キャディーは、プレーヤーがゴルフをする間、プレーヤーに随行してゴルフクラブを運ぶとともに、プレーヤーに対して、ゴルフコースの地形や距離等を教えたり、プレーヤーの打球を確認する。以前は、キャディーが自らプレーヤーのゴルフバッグを担いで運んでいたが、現在では、カートが導入されており、ゴルフクラブの運搬はカートを利用している。このほかに、キャディーは、プレーの進行管理や悪天候等によるプレーの中断の判断なども行う。ただし、これらのプレーに関する業務については、コースを巡回している原告の従業員の指示がある場合には、それに従う。

キャディー全員が、原告から支給される制服を着用してキャディー業務を行っている。

4  キャディーの採用に関して、原告では、キャディーを募集することはしておらず、キャディーが知り合いの者を連れてきたり、プレーヤーからの紹介等によりキャディーを採用している。キャディーとして採用されるには、最初に一定期間の見習期間があり、右期間中、キャディーマスターが指示するベテランのキャディーに付いてキャディー業務を習得しなければならず、一定期間後、キャディーマスターやその他原告職員に随行して実際にキャディー業務を行い、能力が一定の基準に達したと認められた場合に、キャディーとして採用される。

また、原告は、各プレーヤーにキャディーの評価についてのアンケートを行って、キャディーの勤務状況を把握し、毎月一回、会員から選ばれたキャディー委員と原告の支配人及びキャディーマスターが参加してキャディー委員会が開かれ、その場で指摘された事項について、キャディーマスターが、キャディーに対して、個別に指導したり、全員に一般的に指導したりしている。

5  プレーヤーは、プレー終了後、グリーンフィーとともにキャディーフィーを原告に支払う。現在のキャディーフィーの金額は、プレーヤー一人当たり二二〇〇円の定額である。原告は、受け取ったキャディーフィーの中から、キャディー報酬を週ごとにまとめてキャディーに支払う。キャディー報酬は、キャディーの経験、能力、サービスの程度等に関係なく、一ラウンド当たり一二〇〇円と定められている。ただし、平日よりも土曜・日曜・祝祭日における単価が少し高く、また、一日に二ラウンド回った場合には、二ラウンド目の単価が少し高い。原告は、キャディーフィーからキャディー報酬を支払った残額から、福利厚生費やカートの使用料等を差し引き、キャディーの税金等を支払う。その残りの部分については、原告に留保されている。

キャディー報酬の決定については、キャディーからの値上げの要望等も考慮し、他のゴルフ場との均衡も図り、県内の相場を参考にして、最終的には、原告の役員会で決定している。

キャディーには、プレーがスタートするまでの待機期間やプレーヤーの随行がない場合の補償がなく、また、天候悪化等により原告がプレーヤーからゴルフ場利用料を請求できないような場合も、キャディー報酬は受け取ることはない。

6  キャディーは、兼業を禁止されておらず、原告の承諾なく兼業を行うことができる。

二  所得税法における給与所得とは、単に雇用関係に基づく労務の対価として支給される報酬というよりは広く、労務の提供が自己の危険と計算によらず、他人の指揮監督ないし組織の支配に服してなされる場合にその対価として支給されるものであり、一方、同法における事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、利益を得ることを目的として継続的に行う経済活動から生じるものであると解されるところ、本件では、原告とキャディーとの間で、形式的には雇用契約が締結されていないものの、前記認定事実、特に、キャディーの採用の仕方、プレーヤーへの割当や日常業務に対する管理の在り方、キャディーの勤務状況の把握及び指導、キャディーの報酬額の決定及びその支給方法等を総合考慮すると、キャディー業務は、原告がゴルフ場におけるプレーヤーに対するサービスの一部をなしているものであり、キャディーの労務提供は、キャディー自身の危険と計算によるものではなく、原告の指揮監督に服してなされるものであると認められる。したがって、右労務提供の対価として支給されるキャディー報酬は、所得税法上の給与所得に当たると解される。

三1  原告は、キャディーがプレーヤーに随行して労務を提供する際に、自己の判断と責任によって労務を提供している旨主張する。しかし、前記認定事実によれば、キャディーが行う業務は、全体として原告の経営方針や指導に基づいてなされ、原告の管理が及んでいると認められる。プレーの進行管理や悪天候等によるプレーの中断等の判断を独自に行うことがあるものの、それはキャディー業務の一部について判断を委ねられているにすぎない。したがって、原告の右主張は採用できない。

2  また、原告は、キャディー報酬が給与所得でなく事業所得であることを基礎付ける事情として、<1>キャディーには定時刻の出勤義務がなく、出勤簿も存在しないこと、<2>いつでも自由に休暇をとることができること、<3>兼職も可能であること、<4>プレーヤーがスタートするまでの待期時間等の補償もないこと、<5>天候の悪化等によってプレーヤーからゴルフ場利用料を請求できない場合、キャディー報酬を受けとることはないことを主張する。

しかし、前述のとおり、給与所得に該当するか事業所得に該当するかは、労務の提供が自己の危険と計算によらず、他人の指揮監督ないし組織の支配に服してなされる場合にその対価として支給されるものであるかどうかにより判断されるのであって、原告が主張する右事情は、いずれも、直ちにキャディー報酬が事業所得であることを基礎付ける事情とはならず、これらの事情だけでキャディ報酬が給与所得に該当することを否定する事情にはなり得ないものである。そして、前記認定のとおり、原告が主張する右事情を考慮しても、本件ではキャディー報酬は給与所得と認められるのである。したがって、原告の右主張は採用できない。

3  さらに、原告は、平成三年に、沖縄国税事務所及び北那覇税務署が原告に対して税務調査を行い、キャディー報酬が原告の売上に計上されない、キャディー報酬に対して源泉所得税を課税しないとの結論を出したこと、北那覇税務署が、原告に対して、個々のキャディーに事業所得として申告するように指導したこと、平成三年と平成五年では、原告とキャディーとの関係には全く変化がなく、平成三年に給与所得ではないとの判断をした背景に特別に変化がない以上、キャディー報酬は給与所得ではないというべきであることを主張する。

証拠(証人島袋清正)によれば、平成三年に北那覇税務署の法人税源泉所得税第一部門国税統括調査官が、沖縄国税事務所の法人税課から指示を受け、キャディー報酬に関する源泉所得税の調査を行っていること、右国税統括調査官は、原告がキャディーフィーを売上に計上していないことから源泉では処理できないと判断し、その旨沖縄国税事務所の法人税課に連絡したこと、その結果、原告に対し、キャディー報酬を事業所得として確定申告させるように指導がされたことが認められ、右認定事実によれば、平成三年当時、沖縄国税事務所及び北那覇税務署としては、原告のキャディー報酬について、事業所得として処理することもやむを得ないものと理解していたことはうかがわれる。しかしながら、前記認定のとおり、本件のキャディー報酬は、給与所得と認められるのであって、過去に右のような経緯があったからといって、キャディー報酬の性質が変わるものではない。したがって、原告の右主張は採用できない。

四  結論

以上によれば、被告が、キャディー報酬を給与所得であるとしてなした本件各課税処分には事実の誤認はなく、他に本件各課税処分を取り消すべき理由も認められない。

したがって、原告の請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 喜如嘉貢 裁判官 齊藤啓昭 裁判官 井上直哉)

別表一

[法人税]

<省略>

別表二

[消費税]

<省略>

別表三

[納税告知処分]

<省略>

別表四の一

新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額の計算

<省略>

別表四の二

新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額の計算

<省略>

別表四の三

新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額の計算

<省略>

別表五

[キャディー報酬等に係る源泉徴収税額]

<省略>

<省略>

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